そうしたら先生は、「あんた天竜さんじゃないですか、あんたもおそらく、このじじいが、こんなにうまく投げられるとは思わないだろう。しかし武道というものは、そんなものじゃない」といい、自分は左手のほうが弱いからと左手を出し、「あんたは力も強いだろう。力も何も入れてないから何をしてもいい。やってご覧なさい」といわれたのです。
私は、「このじじい何をいってる」と思い、手をつかんだのですが、途端ハッと思いましたね。まるで鉄棒をつかんだような感じだったのです。
もちろん私どもは相撲界にいて、いろいろなことを知っていますから、これはいかんと思いました。もうそれで負けですよ。でもそのまま下がるわけにはいかず、とにかくねじ上げてみようと、グーッとやったが、ビクともしない。それで両手を使って力一杯やろうとしたのですが、それをうまくドーンと使われてひっくり返されていた。(中略)こういう武道があるかとほんとうに驚きました。その晩先生の宿舎を訪ねて、「どうか弟子にしてください」とお願いしましたら、牛込若松町の道場(皇武館道場)へ来なさいということになりました。
(引用元: 植芝盛平 - Wikipedia)